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Channel: くにしおもほゆ
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能へのお誘い (第15回:能の世界の人達)

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私が学生時代に、師匠をはじめ能の世界の人達をほんのちょびっと垣間見た印象は、とにかく穏やかで、それでいて礼儀正しくきちんとされている感じでした。
稽古にお邪魔すると、師匠の高弟らも来られていて、雑談の輪に加えて頂いたこともちょいちょいあります。
雑談といっても、決して大声は出しません。話題も能の演目に関係することを中心に、上品です。広い意味でのユーモアといいますか、機微に溢れて面白いですが、腹を抱えて大笑いすることはなかったです。

話は飛びますが、川端康成の「伊豆の踊子」の一節に、対岸にいる踊り子が主人公を見つけた嬉しさに我を忘れて湯から飛び出して手を振り、それを見て「まだ子供だなあ」と“ ことこと笑う” という有名なくだりがありますね。
エロスの場面設定でありながら、清らかさが漂う“ことこと笑う”という表現、いいなと思いました。
能の世界の人達も、口を覆うわけでもありませんが、穏やかに笑っていたのです。

能も舞台芸術で、芸術は自己表現です。でも映画やテレビや新劇の関係の人によく見聞きする「オレがオレが」「私が私が」がありません。みんな自分を抑えています。
自分を抑えることが当たり前で、苦痛でも何でもありません。
昔から延々と続いている演目1つとっても、画期的な演出なんてあり得ません。
シテは、その演目を充分に理解して、自分なりの工夫が僅かに許されます。

不思議なもので、学生でもこの世界にちょっといるだけで、染み付いてしまいます。
学生能楽の会で、私が着替えてちょっと乱雑に服を置いていたら、後から楽屋に来た他の大学の同好の人が、畳み直して風呂敷にきちんとまとめてくれていました。
「してあげたよ」という感じでもなく、自然にです。
能楽師がとんでもない犯罪で捕まったとか、あるのでしょうか。私は聞いたことありません。

人生に「〇道」とつく習い事を1つ以上しなさい という勧めを聞いたことがあります。
能楽は敢えていうなら芸道でしょうか。武道であれ、華道・茶道・書道などの文化活動であれ、「道」ですから、単に技術だけの伝承ではありません。先人を尊び、日本人としての考え方や振る舞いを教えてくれるものは大切に受け継いで行きたいです。


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能は日本が世界に誇る仮面劇です。
日本文化よ、永遠にあれ!
 
  (能へのお誘い シリーズの過去記事です。)




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