京都薪能、笛の80代男性演者倒れ死亡 平安神宮
平安神宮で行われた「京都薪能」=6月1日午後、京都市左京区(志儀駒貴撮影)
1日午後7時55分ごろ、京都市左京区の平安神宮で開催されていた伝統芸能「京都薪能」の舞台上で、出演者が倒れたと関係者から119番があった。川端署によると、倒れたのは80代の男性で、搬送先の病院で死亡が確認された。同署は死因を調べている。
主催者の京都市によると、男性は帆足正規さんで、演目「杜若」で笛を吹いていたという。
普通の事件・事故のニュースとしての扱いです。詳しい状況は全く分かりません。
しかし上の画像には、紛れもなく、かがり火に映える「杜若」(かきつばた)の後シテが写っています。
平安神宮で仮設舞台を造っての薪能が長年続いています。
薪能には能楽堂に行くのはちょっと敷居が高いと感じる方など、初めて能を見る方も含めて幽玄の世界を楽しまれます。
今回の薪能は1日・2日に開催されましたが、初日である1日の演目は、オープニング・セレモニーとしての「翁」、神事の「絵馬」、リラックスさせる狂言「福の神」、そして「杜若」、最後に霊験あらたかな「春日竜神」です。典型的な能会の演目の並び方で、この日は「杜若」が芸術性が一番高い演目といえるでしょう。
(演目の並びについては、また別の機会にお話しします。)
亡くなった囃し方(はやしかた)の笛の帆足正規さんはお歳が80台、超円熟ですね。
「杜若」のストーリーは、旅の僧が杜若を眺めていると、女(前シテ)が現れ、この花はここで伊勢物語の在原業平が か・き・つ・ば・た の五文字を織り込んだ歌「唐衣きつゝ馴にしつましあれば はるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」(文意:着て馴れ親しんだような妻が都に居るものだから、はるばるとこんなに遠くまで来てしまった旅を悲しく思うのです)を歌った花なのですと告げて姿を消します。間もなく本性を現して杜若の精が後シテ(上掲の画像)で現われて、草木も成仏できることの喜びを舞って表わし、消えてゆきます。
旅の僧は現実の世界に居て、花の精はあの世からやって来て言葉を交わし、またあの世に戻ってゆきます。能にはこういうストーリーがとても多いです。
「この世」と「あの世」は表裏一体のようなとても近しい関係でもあるのです。
伝統芸は長年稽古を積みます。舞台の上で死にたいと云う芸人は多くても、帆足さんは本当になってしまいました。
多くの観客を魅了して能楽ファンを増やす薪能の舞台で、最高の芸術を演じながら、、また杜若の咲き乱れる美しい情景を表現しながら倒れられました。
芸一筋の凄い人生だと思います。 合掌。
さて能の世界では、始まった能は何があろうと最後まで演じるという不文律があります。
もしシテが舞台を踏み外して転落したとしても、這い上がって続けます。
怪我をしたりして続行できない時には、舞台の後で控えていた後見が黒紋付きのまま代行します。だから後見の少なくとも1人は、シテと同等以上の力量を持つ人が務めます。
うーむ、今回のような囃し方さんのケースもあるのですね。
笛無しで続けたのでは、と想像します。笛が無くても、シテは「おひゃらり~♪」と笛が聴こえるのと同じように演じ、舞うことが出来ます。
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能は日本が世界に誇る仮面劇です。
日本文化よ、永遠にあれ!
(能へのお誘い シリーズの過去記事です。)