国会での重要法案の審議に目を奪われている間も、国際宇宙ステーションでは油井亀美也(ゆいきみや)宇宙飛行士が粛々と作業を進めてくれています。
油井飛行士は空自の出身で、F-15のパイロットを務め、空幕にもいました。
きっと法案の行方が気がかりだったのではないかと推測します。
今回寄稿が産経にあったので、全文を転載します。
拙ブログでは油井飛行士について、過去に4回紹介しています。
いまも言いたいことが山ほどあるのですが、また後日にします。
産経 2015.9.22 11:08更新
【宇宙から 油井さんリポート】「こうのとりがISS救った!」飛行士の士気上がる 無重力も慣れれば「便利な所」
皆さんこんにちは。宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙飛行士の油井亀美也(ゆい・きみや)です。2回目の今回は、私の宇宙での生活や仕事の様子を少し詳しく皆さんにお知らせしたいと思います。
私が国際宇宙ステーション(ISS)へ到着し、既に約2カ月が過ぎました。最近はISSの環境への適応がさらに進んだ感じで、実験や機器のメンテナンス作業を精力的に実施しています。
ご存じの方も多いと思いますが、先日、日本の物資補給機「こうのとり」がISSに到着しました。この時、私は地上の通信役であった若田光一宇宙飛行士や、筑波宇宙センターの管制チームと連携をしながら「こうのとり」をロボットアームで捕捉する役目を務めました。
チーム日本が他国のチームと連携して、速達サービスで緊急輸送した水の濾過(ろか)フィルターなどの重要な物資を無事にISSに届けたことで、日本の宇宙開発に対する他国の信頼もさらに上がりましたし、何よりいろいろな物資が心細くなっている中で、必要な物を受け取れたことはうれしく、飛行士の士気も大いに上がりました。米国やロシアの飛行士たちも「日本のHTV(こうのとり)がISSを救った!」と言って、搭載されていた新鮮なオレンジやレモンを一緒に食べてお祝いをしました。
また身近なところでは、私も「こうのとり」が到着するまでは、耳を掃除するための綿棒もなく、体をきれいにするための宇宙用のせっけんもありませんでした。「こうのとり」が来たおかげで、ようやく体を清潔にすることができるようになったのです。
「こうのとり」の捕捉のような、大きな任務は報道される機会も多いですし、皆さんもご存じであると思いますので、今日は実験や機材のメンテナンス作業など、日常に関わる部分を少し紹介させていただきます。
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宇宙といって最初にイメージするのは何でしょうか? 多くの方が無重力(微小重力)状態を挙げるのではないかと思います。この状態は、ISSが地球を秒速約8キロという高速で周回する際に発生する遠心力と地球の重力が釣り合っている状態で、この微小重力環境を長時間保てるということが、さまざまな実験を宇宙ステーションで行っている大きな理由の一つになっています。
ただ、われわれ人間はこれまで常に重力のある環境で生活してきたので、無重力状態に慣れるまでは、あまり気持ちの良いものでも、便利なものでもありません。遊園地で高い所から落下するコースターなどでも一瞬だけ重力が少ない状況を体験できますが、あれに24時間乗っていたら少し気持ち悪くなりますよね。
身体面だけでなく、仕事の面でも当初は無重力状態が作業の邪魔をします。宇宙空間では、物を一つの場所に止めることが非常に難しいのです。地上であれば重力があるので、机に物を置いたりできますし、物を落とせば床や地面に落ちています。ところが、無重力環境では物を離せばその場にはとどまらず、小さな力でもどこかへ飛んでいってしまいます。
物は面ファスナーか粘着テープなどで毎回しっかり固定しておかないと、なくしてしまいます。そして、なくした物を探すときは、床だけでなく3次元の空間を探さないといけませんから、非常に時間もかかります。地上から見ると一見楽しそうな無重力状態も、最初はこのような状況で結構大変なのです。
ただ、私のように既に約2カ月ISSに滞在して、無重力状態に体も頭の空間認識も慣れてしまうと、これほど便利な所はないです。道具などは床、壁、天井など、どこにでも張り付けておけますし、作業場所が高い所にあって手が届かないとか、手を挙げていて疲れるといったことがないのです。天井で作業をするときは天井に張り付いて、壁で作業をするときは壁に張り付いて作業をすればよいのです。
私も宇宙での環境に慣れることによって、最近はかなりスムーズに多くの仕事をすることができるようになっています。高品質タンパク質結晶を作る実験では、私がサンプル(試料)の取り付けや回収を行いました。また、実験中も実験機器に与える振動を極力制限するため、他の飛行士に注意喚起するなど、とても慎重、繊細に実験を行っていました。そのサンプルはソユーズ宇宙船で一足早く地上に持ち帰られ、既に地上での解析作業に入っています。
また、「こうのとり」で到着した小動物飼育観察装置の設置、機能確認や、日本の大学やブラジルの小型衛星の放出を行うなど、非常に順調に実験が進んでいます。
今後も日本の皆さんの財産、あるいは人類の財産である日本実験棟「きぼう」を利用し、さらに成果を上げていきますので、引き続き応援よろしくお願いします。